コーヒーの評価基準:カッピングの問題点と修正

コーヒーの評価基準の見直しと修正

スペシャリティーコーヒー市場の規模拡大に伴い、さまざまなコーヒーが、さまざまにその味を表現され売られるようになった。またSCAJやSCAAで使用されている、コーヒーのカッピングの手法についても顧客に尋ねられることがある。

そうした状況の下、当店では顧客に対し可能な限りコーヒーの特徴を正確に伝え、納得して購入してもらいたいと考えている。そのためコーヒーを評価し、その味わいを購入者に対して伝えてきたが、その試みは、必ずしも成功していたとは言い難い。

この記事では当店のコーヒー評価基準の見直しとその修正について述べていきたい。

コーヒーの評価が購入者に伝わりにくい原因

原因1:説明に使われている用語が曖昧で統一感がない

「重厚な」「力強い」「マイルド」「心地よい」「上品な」「生き生きとした」「優しい」「華やかな」etc、etc、、、。珈琲の味わいを表現するために様々な言葉が使われている。自戒と反省の念を込めて書くが、当店でもこういった表現を使用してきた。
例えば当店では味わいの説明に「クリアー」「透明感のある」「スッキリとした」などの表現を使用したことがある。しかし結局これらは同じアフターテイストの感覚を表現したものであって、それぞれに違いはない。
このようにはっきりと「アフターテイスト」を指しているとわかる場合は比較的マシである。ひどいときは「円熟した」とか「上品な」とか「爽やかな」とか味を連想しにくい形容詞がつかわれ、しかもそれがフレーバーを指しているのか、マウスフィールを指しているのかはたまたボディを指しているのかよくわからない記述をしたこともあった。

こういった言葉の問題を解決するため、今後は明瞭な形容詞を選択し、それが何を修飾しているのか、つまり「ボディ」を指しているのか「マウスフィール」を指しているのかをはっきり記述するようにしたい。

原因2:カッピングの評価基準が曖昧

当店ではSCAAなどで採用されているカッピングシステムではなく、酸味やボディを強弱で表現し、コメントでその詳細を補足することにより、コーヒーの味わいを購入者に伝えてきた。しかしその評価項目の精査は十分ではなかったと考えられる。より正確にコーヒーを評価するにはカッピングのシステムを整理し、当店に合うように修正する必要がある。以下ではその詳細を述べていきたい。

既存のカッピングシステムの検討とその修正点

Protocols & Best Practices — Specialty Coffee Association

まずカッピングとは、コーヒーに点数をつけ、その良し悪しを評価するシステムである。SCAA(アメリカのスペシャリティコーヒー協会)でもSCAJ(日本スペシャリティーコーヒー協会)でも、それぞれ若干異なるカッピングシステムを採用しているが、基本的な仕組みは同じだ。「アロマ」や「ボディ」などコーヒーの味わいを構成する要素ごとに点数をつけて評価を行う。

SCAAだと以下の10項目をそれぞれ10点満点で評価し、合計で100点となる。
アロマ(豆の香り)
フレーバー(飲んだときの香り)
アフターテイスト(余韻)
アシディティー(酸味)
ボディ(コク)
ユニフォーミティー(異なるカップでの均一性)
バランス
クリーンカップ(雑味のなさ)
スイートネス(甘み)
オーバーオール(総合)

合算した点数が80点以上だと「スペシャリティーコーヒー」と定義されている。
また何らかの欠点がある場合、最大で4点が総合得点から引かれる。

問題1:正確性と、一般的な購入者への表示方法としての問題
同じコーヒーをカッピングしても、その点数は毎回同じになるわけではない。それにはいくつかの理由がある。
まずカッピングが人の感覚に依拠している以上毎回ある程度のズレが生じる。そして個人により、または文化により点数の付け方が異なる。ある人は7点の酸味が他の人にとって6点だったり8点だったりする。
ローストに原因があることもある。異なるローストのレベルではその評価を異なったものにするし、同じレベルでローストしたつもりでも、それが必ずしも上手くいっているとは限らない。
ロースターはこういったズレが頻繁に起こることをしっているし、カッピングの評価を見てそのコーヒーの味をわかった気になることはない。大体の傾向を把握しているにすぎないのだ。しかし一般の顧客にとってはどうだろうか?例えば90点のコーヒーと80点のコーヒーがあったら90点のほうが美味しいだろう考えて買ってしまうかもしれない。
カッピングが完璧に正確でないことは当たり前だし、仕方のないことだろう。しかしその点数はそのまま一般的な顧客に公開し、顧客が満足できる品質を保証できるようなものではない。例えば80点のエチオピアナチュラルと88点のエチオピアウォッシュドを比べたとき、ナチュラルのほうが美味しいと感じる顧客は大勢いると思われる。こういった意味でカッピングの点数をどのように提示していくかということが課題となる。

問題2:評価項目の妥当性

そもそもSCAJとSCAAは異なる項目を掲げたカッピングシステムを採用している。仮にどちらかのカッピングシステムが明らかに完璧ならば、そちらが世界基準として採用されるはずである。つまり現在はコーヒー業界全体としてのカッピングのコンセンサスは存在しない。
当店でも「顧客に珈琲の味わいを伝える」ことを最終的な目標とし、独自の考えでカッピングの項目を見直し、修正していきたい。

また複雑なものを複雑なまま記載するシステムや理論に意味はない。複雑なものからイレギュラーを排除して、一般論としてシンプルに、分かりやすくしたほうが良い。以下の検討もその信条にもとづき、可能な限り評価項目をシンプルにすることを心がけているのでご了承いただきたい。

バランス:どのようなバランスが良いかは個人の好みに依る部分が多い。よって良し悪しを測定することはできないので不要な項目とする。

オーバーオール:評価が重複するだけのように思えるので不要とする。

ユニフォーミティー:同じサンプルにおける異なるカップ間での均一性。基本的に重大な欠点豆が混入していない高品質の豆であれば問題になることは少ないと思われる。またこの項目が問題になるようであれば、その他の項目も高得点を取るのは難しいと思われるので不必要とする。

クリーンネス:ネガティブな感覚を引き起こす雑味が明確に存在するなら「fault(欠点)」として全体の点数から差し引く、もしくは別にコメントで言及したほうがいいと思われる。また雑味と判断するのが微妙な要素(インドネシアのアーシー感、スモーキー感など)が存在する場合、それがネガティブであるのかポジティブであるのか一般論に落とし込むのが難しい。したがってこの項目は不必要とし、欠点がある場合、別にコメントとして記載する。

アフターテイスト:コーヒーの持つ余韻は甘みやボディの強さ、酸味の強さで決定される部分が大きく重複していることから不要とする。もちろんボディや甘みが強くても余韻が続かない、スッキリとした印象をもつコーヒーも存在するが、それほど割合は多くない。アフターテイストの印象が特に強い場合や例外的な場合はコメントで言及する。

マウスフィール:口当たりを表すマウスフィールは上記のSCAAの項目の中には存在しないがよく使われる説明である。Smooth(なめらか)、Heavy(重厚な)、Creamy(クリーミー)、Light(軽い)などさまざまな表現があるが、これも数値化する評価項目としては採用せず、必要であればコメントで言及するに留める。理由はやはり他の項目(フレーバー、ボディ、酸味など)の総合値という印象が強いからである。

アシディティー、ボディ及びスイートネス:これらはコーヒーを構成する根源的な要素と思われ、他の項目に還元し難い。そのため数値化する項目として採用する。ここで問題となるのは既存のカッピングのように、これらの項目を「質」として評価できるかということである。

アシディティーの項目を例に考えてみる。
アシディティーが9点であるということは、6点のアシディティーよりも良い質をもっているということである。そしてその「質」は「Vivid(鮮やかな)」「Fresh(いきいきとした)」「Bright(明るい)」などと表現される。そしてしばしば「Blueberry like (ブルベリーのような)」というフレーバーの評価を伴って記述される。このような評価は2つの懸念を引き起こす。
1つ目の懸念はアシディティーの「質」とは、結局フレーバーの「質」と何が違うのかということである。9点と6点の差は、9点のコーヒーがより優れたフレーバーを持っていただけで、アシディティーに優越があったわけではないのではないかと捉えることができる。またフレーバーの点数が高いのに、アシディティーの点数が低いコーヒーというのは想像しにくい。
アシディティーとフレイバーは不可分であり、当たり前のことだと感じるかもしれない。しかしだとするとフレーバーとアシディティーの項目で評価が重複してしまっていることになる。
2つ目の懸念はコーヒーの購入者はアシディティーの強弱に大きな興味を持っているということである。「アシディティーが少ない(多い)コーヒーがほしい」と希望する購入者は非常に多い。ならばフレイバーから推測できるアシディティーの「質」を数値化して提示するよりも、その強弱を提示したほうが購入者にとってわかりやすいのではないかと思われる。

上記ではアシディティーの例を上げたが全く同じ理屈がボディやスイートネスでも当てはまる。そのため当店ではこれらの項目を数値化して表示するが、質ではなく強弱を表示したい。

フレーバー:これまでいろいろな項目を見てきたが、個人的にはフレーバーこそがコーヒーのキャラクターを決定づける最重要項目だと考える。上述したようにアシディティーなどその他の要素の感じ方は、このフレーバーに依存している。したがってフレーバーはより正確な評価が求められる。
さて、ではフレーバーの評価とはなにか?コーヒー業界全体としてのコンセンサスはないかもしれないが、一般的にそれはIntensity(強さ)とComplexity(複雑性)であると考えられる。強さとはフレーバー、つまり香りの強さそのままである。複雑性とは香りの豊富さ、そこから生まれる奥行き感を表している。(*注)より正確にフレーバーを評価するために、当店ではこの2つを独立した評価項目とする。

アロマ:アロマとは淹れる前のコーヒー豆の状態、そして粉砕された状態での香りのことだ。コーヒーを淹れる際の大きな楽しみであり、評価を行う際の重要な要素である。しかし当店では数値化する項目とはせず、コメントで言及することにする。
理由は単純に、あまり評価項目を増やして冗長にしたくないからである。フレーバーの点数が高ければアロマの点数も高いことがほとんどだから、フレーバーの点数を見ればアロマの点数も推測できる。

新しいコーヒー評価基準

前章においてコーヒーのカッピングにおける評価項目を検討し、修正を提案してきた。それらを総括すると新しい評価基準は以下のようにまとめられる。

評価項目一覧(計5項目)
Flavor Intensity フレーバーの強さ 1~5点
Flavor Complexity フレーバーの複雑さ 1~5点
Body Intensity ボディの強さ 1~5点
Acidity Intensity 酸味の強さ 1~5点
Sweetness Intensity 甘みの強さ 1~5点

当店では上記の項目について1~5点の5段階で評価して公表することにする。

またコメントとして以下の要素に言及する。
アロマの特徴(ベリー系、柑橘系などの質的特徴)
フレイバーの特徴(ベリー系、柑橘系などの質的特徴)
上記の評価項目の補足
クリーンネス
アフターテイスト
マウスフィール
etc

この評価方法ならば顧客は数値化された評価項目によって、好みのコーヒーを選ぶことができるし、細かい質についてコメントで補足することが可能となる。今後はこの評価基準を周知し、顧客に対してより正確にコーヒーの味わいを伝えるよう努めたい。

最後にこの評価基準については「点数=品質の善し悪しではない」ということに留意したい。例えば「ボディの強さ」で5点を獲得したコーヒーが3点のコーヒー質の高いコーヒーであるわけではない。なぜならば、どれぐらいのボディの強さが望ましいかは、個人の主観により変わってくるからである。軽い味わいを求めている顧客にとってはボディの強さが3点のコーヒーのほうが美味しいと感じるかもしれない。
また同様の理由で点数を合計し、総合点をつけることもしない。実際は個人の好みにより重視される項目は違うはずなのに、総合点をつけるとどうしてもその点数が高いほうが良いコーヒーと捉えられがちだからだ。

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(*注) 例えばSCAAのウェブサイトには”The score given for Flavor should account for the intensity, quality and complexity” <https://sca.coffee/research/protocols-best-practices> (訳:フレーバーの点数はその強さ、質、複雑性によるべきである)と書かれている。なおここではQuality(質)と書かれているが、具体的な説明がないので何を指しているのかわからない。特定のネガティブにとらわれることがあるフレーバー(アーシーやセイボリーなど)との比較を指しているのかもしれないが、だとすると数値化しにくいので無視して考える。