スマトラ島 コーヒー生産者訪問(2)フェアトレードの効果と農家さんの思い


2019年の10月1日から10月5日までのスマトラ島の訪問記の続きです。前回はKETIARA生産者組合での収穫とプロセスをご紹介しましたが、今回はフェアトレードの効果と農家さんたちの考えと思いについてご紹介したいと思います。

フェアトレードとその意義

当店は最高の味を追求するだけではなく、生産者の方々の生活に貢献するためフェアトレードのコーヒーを、また安心して飲んでいただくためにオーガニックのコーヒーを中心に仕入れています。

フェアトレードとして売られているコーヒーには様々ものがありますが当店ではフェアトレードラベル・オーガナイゼーション(日本支部はフェアトレード・ラベル・ジャパン)の監査及び認証を得たコーヒーを使用しています。

この認証を得るためには、家族経営の農家の組合であること、児童労働の禁止、労働者への法定最低賃金以上の支払い、農家の支援をするために使われる奨励金(フェアトレードプレミアム)の支払いなど、様々な規約を遵守する必要があります。

個人的にもっとも大切なのは「農家さん自身が組織化し、組合を運営していく」ということにあると思います。組織化によりコーヒーを買い叩かれることが少なくなり、より高値でコーヒーを販売できる国際市場へもアクセスしやすくなります。また組合のトレーニングや苗の配布などを通じて、品質の向上も望めます。

KETIARA生産者組合でのフェアトレードの実践、効果


KETIARA生産者組合では農家からコーヒーの実(チェリー)を取り除いて乾燥させた、脱穀直前のコーヒー豆を買取ります。それを精製所で脱穀し、乾燥して出荷しています。チェリーで買い取る組合もありますが、その場合農家にとってパルピングと乾燥の手間が省ける分、買取価格は若干安くなります。

フェアトレード、オーガニックの場合、脱穀前のコーヒー1kgにたいして3.24米ドルが農家に支払われます。脱穀、乾燥後にコーヒー豆は軽くなるのでコーヒー生豆で換算すると約4.5〜5米ドル弱となります。もちろんこの状態からハンドピック、輸送、船積み、倉庫保管とお金がかかる作業はたくさんあるので、ロースターが生産者組合に支払う価格はこれよりも高くなります。

さらにフェアトレードとして売られたコーヒー生豆1kgにつき、0.44米ドルがフェアトレードプレミアムとしてKETIARA生産者組合に支払われます。このプレミアムは農家に対するトレーニングや肥料、苗の配布などに使われます。どのような用途に使用されるかは農家との話し合いの上に決められます。

これに対してフェアトレード、オーガニックではない脱穀前のコーヒーは、買取価格が2.5米ドルと大きく減少します。またKETIARAではなくインドネシア国内向けの業者に卸した場合、買取価格は約2米ドルもしくはそれ以下となるそうです。

この様にフェアトレードであるかどうかによって、各農家さんの得られる金額は大きく変わってきます。実際に訪問して農家さんやそこで働く方とお話すると「私達のコーヒーを買ってくれてありがとう」「コーヒーが高く売れるおかげで、子どもたちを学校に通わせることができる」といった声をよく頂きました。この地域の農家さんは現金収入を得る機会はさほど多くなく、コーヒーに頼っているところが殆どです。当店ではフェアトレードのコーヒーを販売することで、微力ながら農家さんたちの生活が少しでも向上すればと考えています。


(フェアトレードプレミアムで作ったコンポストの作成場)

農家さんの様子

この日はBener Meriah地区にあるDanai村でミーティングを行い、フェアトレードプレミアムで購入したお米とクッキングオイルを配布するというのでついていきました。


ミーティングの様子。年間の動向を報告します。

フェアトレードプレミアムで買ったお米などの配布。

この村でコーヒーを育てるSuyonoさんにお話を聞いてみました。ちなみに名字はないそうです。

「KETIARAに参加した一番大きな理由は、有機栽培についてのトレーニングプログラムが魅力的だったからです。もともとコーヒーを有機で育てたいという思いがありました。自分の子供達も、私が育てたコーヒーを飲みます。子どもたちが口にしても安全なコーヒーを作りたかったんです。特に除草剤であるglyphosate(日本名ラウンドアップ)を使用すれば除草は簡単ですが、土の中のミミズや微生物までいなくなってしまいます。土壌のためにも安全性のためにも有機でコーヒーを作っていきたいと思います。もちろんフェアトレードの高い買取価格やプレミアムを使った様々な支援も助かっています」

 

別の日には同じBener Meriah地区にあるGegem村の農家さん、Asusiさんの農園を訪れました。

標高1600mの、こんな絶景の中にある農園です。広さは2ヘクタールほど。この農園に植えられているのはすべてブルボン種です。

奥に見えるのがオレンジの木。農地ではコーヒーの他に少量のオレンジ、サトウキビ、アボガド、バナナも栽培しています。この様にフルーツなどの他の植物があったほうがコーヒーの香りもフルーティーになり、土壌の状態も良いそうです。

AsusiさんはQグレーダーの資格を持っており、カッピング審査のために海外に出張することもある方です。コーヒーを愛し、常にこの地域のコーヒーの品質向上のため尽力しています。KETIARAに参加するのはフェアトレードやオーガニックに魅力があるのはもちろんのこと、「組合と地域のメンバーと協力してトレーニングや情報共有を行い、より良い品質のコーヒーを作りたい」から、と話していました。

コーヒー農家さんは情熱を持ってコーヒーの生産に取り組んでいる

感銘を受けたのは、農家さんにKETIARAに参加している理由やメリットを聞くと「フェアトレードによる高い買取価格」よりも先に、オーガニックも含めて「品質の良いコーヒーを作りたい」という回答が先にくることです。

もちろん最終的には高い価格で売れたほうがいいのですが、農家さんにとって組合に属してコーヒーを作ることは、まず品質の面でのメリットが大きいと考えているように見受けられました。これは農家の方がコーヒーの生産に情熱と誇りをもっていることの現れのように感じます。

農家さんやKETIARAの方とお話しすると、「私も頑張らないと」という思いが湧いてきます。今後もお客様においしいコーヒーをお届けするためにより一層励んでまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。